Railway Man – オーストラリアで戦争映画を見て思ったこと。
昨日の夜、ベッドに入りTVをつけたら「Railway Man」と言う映画が放送されていた。普段は戦争映画なんかやっていても見ることはないんだけど、実話に基づいたストーリーに引き込まれ、つい最初から最後まで見てしまった。
これから先、ネタバレもありますので、ご注意ください。
いわゆる第二次世界が舞台の戦争映画で、主人公はLOMAX氏というイギリス人。彼は戦争中に東南アジアの戦場で捕らえられ、日本兵によって鉄道建設のための強制労働に従事させられていた。これはLOMAX氏の体験をもとに作成された映画でフィクションではない。
鉄道の建設工事は過酷を極めた。捕虜として連れてこられた兵は長時間の肉体労働に従事させられ、工事の手が止まろうものなら、容赦なく罵声が浴びせられ、日本軍の「憲兵隊(Kenpeitai)」による暴力が待っていた。
いま、人にこのような奴隷的な労働を強いることは誰もできないし、言うことを聞かせるために殴る蹴るの暴行加える、なんてことはとても許されないなことだけど、戦争中はそういうことが平気で行われてしまう。
十分な食料も与えられず、多くの捕虜が奴隷的な労働に従事させられ、雑巾のように働かされて、働けなくなったらゴミのようにそのあたりに捨てられる。この映画の世界には現実とはかけ離れた世界。
LOMAX氏は鉄道に興味があったので、こっそりといま憲兵隊が建設している鉄道のルートを地図で書いたり、ラジオの音楽を聞きたくて、仲間と一緒にケーブルや真空管を盗んでラジオを組み立てたりしていた。強制労働の地獄の中での彼のひと時の安らぎの時間だったが、ある時、地図とラジオが憲兵隊に見つかり、拷問を受けることになる。
憲兵隊はLOMAX氏が作った地図とラジオから、彼が鉄道の建設情報を敵に知らせるためのスパイ行為をしていると疑い、ひどい拷問にかけた。実際には彼は「鉄道が大好きだった」から地図を作っていただけで、ラジオはただの受信機で発信はできないものだった。しかし、いくらLOMAXが説明しても憲兵隊は全く信じなかった。
LOMAX氏は木刀のようなもので繰り返し殴られ、蹴られ、腕の骨を折られ、さらに仰向けで手足をベッドに固定され、水の出ているホースを口に繰り返し突っ込まれる。本当にこのシーンは目を覆いたくなるくらいにひどかった。
そう。戦場を支配するのは圧倒的な暴力。位の高いもの、力の強い者、声の大きいものが圧倒的に優位に立ち、暴力によって支配されるそんな世界。敵同士が戦っている場所だけが戦場ではない。この映画では敵同士の戦闘シーンはほとんど出てこない。でも、その捕虜を収容しているキャンプでさえも、このような暴力による支配が行われるのが戦争。
あなたはそれを受け入れられるのだろうか?
ほんとに納得できるものなのだろうか?
私にはできない。
「戦争で敵に思い知らせてやる」って言っている人もいるけど、その本当にその戦争というものの恐ろしさをわかっているのだろうか、と私は考える。戦争や死というものをものすごく安易に考え過ぎてはいないだろうか。
戦争っていうのはボタン1つでミサイルが飛んでいってドカンと爆発して相手が死んで終わり、そんなわけではない。戦争というのは人間同士の殺し合い。実際戦場に立っている人は「今日死ぬかもしれない」という死の恐怖に怯えながら日々を過ごさなくてはならない。
今あなたが生活していく中で「今日殺されるかもしれない」という恐怖があるだろうか?
殺される前に相手を殺さなくてはいけないかもしれない、その恐怖があるだろうか?
おそらく今の日本ではないと思う。
でも戦場ではそういうものと絶え間なく隣り合わせで毎日が過ぎていくわけだ。
多くの人は「戦争は悲惨だ」という風に言うけど、今では戦争の本当の具体的なイメージを知る人は圧倒的に少なくなっているのは事実。最近の日本では自衛隊のポスターにもアイドルやアニメのキャラクターが登場し、きれいな制服を着て「この国を守りたい」みたいな、極めてクリーンな雰囲気を醸し出そうとしてるけど、実際は戦争って全然そのものじゃなくて、ものすごく辛くて、汚くて、人間が人間としていられない位の、そんな状況じゃないかと思う。
もう一度、尋ねます。あなたはそれを受け入れられますか?
今日本では集団的自衛権、共謀罪、秘密保護法など、戦争時代を彷彿させるような法整備が着々と進められてる。これは以前日本が辿ってきた道ををもう一回繰り返そうとしてるような気がしてならない。
もう間に合わないのか、まだ間に合うのか、本当のところはわからないけど、少しでも多くの人に、映画ででもよいので本当に戦争に自分が巻き込まれると、どういう状況になるのか、そしてその戦争を放棄するという日本国憲法を持っているのに、それの憲法を放棄しようとしている日本のことを、ちょっと考えてほしいと思った。
* * *
LOMAX氏が強制労働させていたキャンプで、日本側の通訳としてナガセという役を演じていたのは真田広之氏だった。
オーストラリアでテレビを見ていると「あ、また真田広之だ」というくらいいろんな映画でよく見かける。英語もとても流暢だし、聞き取りやすい。なんとなくドラマ「高校教師」のイメージがあったけれどもなかなかいい役者だなぁと最近は感じている。
ちなみにこの映画、日本でも2014年に公開されていたようです。『レイルウェイ 運命の旅路』なんて安っぽいタイトルつけられちゃって・・。コリン・ファース×二コール・キッドマン×真田広之『レイルウェイ 運命の旅路』2014年4月公開決定 シネマトリビューン
ちなみに、この画像は、Perthから100kmほど南にあるDwellingupというところでまだ現役のトロッコ列車を撮影したもので、実際の映画の鉄道とは無関係です。